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最終更新 2026/08/13

灰桜キャラクター練り用SS

 夢を売る。

 身も蓋もない言葉に聞こえるが、この世界――ひいては監房棟クアドラに収監されている囚人にとっては、一つの生きる手段である。

 ローゼルク監獄に、灰桜と自身の名を名乗る看守が居る。何処をどうそうなったのか、それは本件で語るにはまだ設定が練られていないというご都合の元伏せてはおくが、囚人達の『夢』に異様な執着を持っている。曰く、ただの性へ――趣味、この監獄の運用において何の意図もないという。しかしながら、個人のプライバシーを一応鑑みるに、権力をかざして話させるものでもない……という考えの元、灰桜は囚人に対価を渡すことで夢の話を得ることにしている。

―― 対価とは、報告の間の茶と菓子の提供

 故に、監獄棟の中でも特にクアドラの、貴重な糖分補給所として利用されている。

「駄目だ、死にそう。……ちょっと売ってくるわ」

 お腹を擦りながら、今日もまた一人生きるために夢を売る。

ある囚人の記録

・所属:クアドラ
・話者:〇〇 氏
・対価:蜂蜜たっぷりのホットミルク、クッキーをひと籠
※本人の強い希望によりミルクを採用。郷土に伝わる入眠の習慣、幼少期に母堂より与えられていたものとのこと。良質な睡眠による次の夢の提供を期待し受理とした。

────────

「それは巨大な龍を屠った後から始まったと思う」

 夢なんてそんなものだと肩をすくめ。

「元の世界で冒険者だったからな、先ずは火を起こし、それから龍を解体した。あの世界にいた頃の俺なら、牙とか鱗とか…そういう。だが不思議なことに迷わず肉を求めた」

 一口、ミルクを啜る。急速にその液体が体内に巡ると身体の強張りが溶けるように力が抜ける。

「持ち合わせていた香辛料を荒く挽して火に焚べる。匂いも熱さも、感じる事は勿論ないけど、火の弾ける音が妙に生々しくて、それから聞いたことがない腹の音」

 カップの中のミルクはあっという間に底をつき、◯◯はちらりと灰桜をみる。「少し待て」と一言告げ中座した後数分でおかわりを持って戻ってきた。

「感謝。んで、焼き上がった龍の肉を食べて食べて…全部食べきった。そうしたら一瞬暗転したかと思うと、あの音がした」
「あの音とはなんだ」
「腹の音。あれだけ食べたのにな。そうしたら、眼の前にまた龍が横たわっていて『そうか、まだ食べていなかったのか』って。そうして最初に戻る。起きるまで永遠に」

 元々龍に遭遇し勝つことさえままならない筈なのに、疑問も持たず食べ続けたのも恐怖である。だが一番の恐怖は目が覚めた時だと◯◯は続けた。

「あんなに食べたのに目が覚めればまた腹が鳴る。地獄だよ。こんなもんでいいか?」
「ああ、また一つ物語が追加できた。食べ終えたら戻れ、点呼に間に合わないのは問題だ」

 そうしてほんの少し腹を満たして◯◯は立ち上がる。

「そういや夢占いしてくれないのか?」
「おや、してほしいのか」
「まあ…せっかくだし」

 机に数回ペンの先を叩いてから、灰桜は見上げ◯◯を観た上で…

「◯◯氏の場合は…」

 と、紙にそれを書き上げ渡した。

───────

■渡された紙

底なしの食欲は、愛への欲求が暴走しかけている兆し。
内発的な自己肯定感が枯渇しており、他者からの強烈な愛情を強奪・同化することでしか自己肯定出来ない状況。言葉通り飢えている。

───────

「どうだった?」
 監房に戻れば待ち構えている同室の囚人。持ち帰った紙を渡せば、それを読んで軽く吹き出される。
「愛っ」
「いい加減だよな。夢だって適当に考えた話なのに」
 紙を取り返すと手でぐしゃっと丸めてごみ箱へ。
「あんな話何が面白いのかわからないけど、まー、お陰で生き延びられる。あ、時間か」
 遠くから点呼を取る看守の声。こうして◯◯の一日は終わりを告げた。

───────

「あの囚人、適当な話をしてなかったか?」
「気づいたのか、私もそう思ってるよ」
 囚人が去った後の看守同士の会話がそこにあった。声を掛けてくれた看守に灰桜はほんの少し唇の端を釣り上げて。
「彼はしてやったと思ってるだろう。だが今日彼は確かに夢を売った」
「意味がわからない」
「蜂蜜入りホットミルク…あれは彼の夢そのものだ。もう一度飲みたかったと夢を見て、それを私に売ってしまった。今夜はとても残酷な夢を見るだろう。その時はきちんと…」

―― 詳細を報告させねばな畳む


文字数 1743文字 #PBW #SS
昔書いていた某作品の二次創作
色気全く無いBL。メリバ…でもないな。

 『はざま』と呼ばれる場所がある。

 生の世界では天国とも地獄とも言われる場所、生の世界を終えて次の生に備えるための準備をする場所、といえばいいのだろうか。その場所にいる者たちは次の生の為に、過去の汚れを浄化して無垢な存在としてまた地に還る。つまりここに到着したばかりの者ほど過去の世に捕らわれ、新たな世の準備ができた者ほど過去の記憶が失われている。そんな場所だ。

 俺はその魂達を管理する監督者である。どのぐらいこの仕事をしているかは忘れた。時間なんて気にしてられる程、短い期間じゃねえのは確かだ。

 そして今、新しい魂の担当を言い渡された。

 やってきた魂は享年15歳、名を✕✕✕と伝えられる。まだ若々しいエネルギーに溢れた魂だった。それ以外の情報は特に伝えられない…情報は必要ねえからだ。情報は魂に語らせればいい。語るという行為が、記憶の消去に繋がる。つまりはおしゃべりな奴ほど輪廻までのスパンが短いって事だ。

 ただしどういう法則かわからねえが、名前を忘れるのは一番最後と決まっている。名前を忘れた時がその時だと、仕事面で言えば楽っちゃ楽なんだが。名前というのは、生の世界に縛りやすいものなんだと誰かが言っていた気がする。
 ともかくこれから✕✕✕が、己の名前を忘れるまでの間、俺はこいつと共に生活をすることになる。多くの記憶を語らせ捨て去る為に。

「お前はどうして死んだんだ」

 仕事の第一声はたいがいこれから始まる。人にとって一番忘れたいのは死に際の様が多いからだ。✕✕✕は小さく唸った後、ただ薄く笑みを浮かべるだけで答えない。

「なんだ、覚えてないのか?」
「……」

 基本、魂というのは自己主張が激しい。だがこいつは違うようだ。ただ笑い、首を傾げ、喋る事を拒否しているように見えた。つかみどころが無いし会話を引き出せないので、こいつは骨が折れそうな案件だと思った。

「てめえは何故語らない」

 記憶に関わらない質問を投げてみることにした。

「喋ると忘れると聞いて」

 輪廻転生のシステムは、俺の様な監督者にわたる前に必ず一通りの説明をうける。説明内容は多岐にわたるが、簡単にいっちまえば『転生すれば次の幸せがまってるよ★』的な洗脳を受ける。『幸せ』という、物差しで測れん幻想に縋らせ記憶を奪う。魂は本能的に『幸せ』を求めてしまうものだから。

「忘れたくねえ事があるのか」
「ええ」

 即答される。声、という概念は無いが、魂の力強い意志が感じられる。こいつは手なずけるのはやはり難しそうだ。と、思った矢先だった。

「貴方は俺が転生したほうがいいと思いますか?」

 逆に質問をされる。

「そりゃ、ここに止まってたとしていいことは無いだろ」
「どうしてです?」
「15歳で若死にしてる魂が幸せだったとは思えねえ。なら次の生で今世の分も幸せになればいい」

 俺の言葉には同意を示せないのか首を横に振る。
 大事な記憶に抵触しないように、言葉を選んでるように、魂が迷ってるように見えた。

「貴方は俺の事を覚えてないですか?」
「…?」
「監督者は、世に未練がありすぎる者がなる…と。別の魂の汚れを御祓、その長い過程で俺達同様転生するんだと聞きました」
「それは誰から聞いた」
「前の担当者からです。俺、他の人には喋らないと、貴方を指名して担当替えしてもらったんですよ」
「…」

 つまりは、こいつは生きていた時の俺を知っていると言いたいのだろう。

「……やっぱり覚えてないんですね」

 魂は残念そうに蒼白い光を放つ。

「俺を知っているのか」
「…ええ。だから俺今幸せなんです。貴方に会えたから。ああ、でもこれ言っちゃうとこの幸せも忘れちゃうのかな」

 魂が蒼白く色を発する。これは浄化という名の忘却の合図。

「これから俺の事を話します。…そして先に待ってます。貴方がここから開放されるのを」

 魂は語り始める。壁の中の世界で味わった苦悩の日々を。それは15歳という人生にしては長く重い物語だった。あちらの世界の何日間だろう、数日間という期間話につきあった。話す度に徐々に消えていく記憶に戸惑いながらも、こいつは話す手順を組み立てていた。

「ああ、もう残ってない。たった2つ以外」
「なんだ」

 これが最後ですね、と✕✕✕は告げる。

「俺の名前と、俺が愛した人の名前」
「15で愛を語るか」
「年齢なんて関係ないです。生きていた時に伝えられなかったから、代わりに聞いていただけますか?」
「ああ」

「■■■■さん、俺、貴方の翼になりたかった。今飛べない貴方の代わりに、俺が羽になりますね」

 そういうと、魂は金色に輝く。浄化が終了し最後の名前の忘却が完了した証拠だ。
その魂は直ぐさま次の転生準備にはいる――つまり、俺の手元から離れる。
 俺の元から消えた魂の残り光を見つめながら、俺自身の何かが震えるのを感じた。

「言うのが遅えよ」

 監督者。それは思い残しが強すぎて転生できない魂の慣れはて。はざまの世界で黒い鎖に捕らわれた人に戻れねえ魂の事をいう。
✕✕✕が消えたその時、俺に絡まっていた鎖が解けた。一気に流れ来る後悔に満ちた記憶。そして忘れたくなかった感情を取り戻して目頭が熱くなる。

「次は俺から言わせろ、くそガキが」:畳む



#SS 2,112文字
PBWクリエイター・トライアルワーク
プロジェクトナニカ様のクリエイター募集にて送付させていただいた内容を、置いていたら恥ずかしくなったところを修正したものになります。つまり、提出したのはこれよりも…。

●3人の囚人

 荒野に相応しく乾いた空気に、『軋り狼』の咆哮はよく乗った。囚人達の前に堂々と降臨し、その姿、その大きさ、それだけでも戦意を削ぐには十分で。むき出された牙と鋭い爪は、闇雲に向かったとて勝機は見いだせない…と、それこそここが終の場所なのだと祈りに逃げる者も現れる。
「ふん。こんな獣など、僕ひとりでも十分だ」
 そんな彼らの姿を横目に大きな蝙蝠型の翼を広げながらアンリが独りごちる。既に戦意喪失した彼らをただ犠牲にする必要もなし。口は悪いが彼なりの思いやりなのかもしれない。
(まずは僕の力がどの程度奴に通じるか…。弱点はあの背中の結晶、さてどうする…?)
ふむりと息を吐き、その呪いで得た翼を広げれば、目の前の巨体との距離を測りながらその手に深紅の炎を纏わせた。

(ヤバイ、ヤバイ…! こんなにデカいの!?)
 アンリよりさらに後方、岩山で丁度陰になる位置から戦況を見る獣人マガリであるVDの姿がある。看守と衝突の絶えない彼女は、敵を其の目で認識するまで、もしかすれば少し楽観していたのかもしれない。しかし、それはあまりに巨体で、動くたびに打ち合い奏でる結晶の不協和音が耳障りである。
 目の前で一人巨体に立ち向かう青年の姿を瞳におさめながら、「サイアク…」「やってらんない…」と本音という愚痴を零しながら、そこにいるだけで感じる強者の気配に、恐怖か緊張か、その陰から飛び出る足が出ずにいた。

 そんな光景をまた別の岩場の陰から狼狩のハーベイは静かに見守る。元々人狼狩りを生業としている彼にとって、種は違えどなじみのある敵なのかもしれない。彼は戦いの開始前に煙草をひと吸いするのがお決まりとなっているが、今はそんな余裕もない…と出しかけたそれを懐に戻す。
(まあ、ちょっと違うようだが…)
 右腕の義手を摩る。それは静かに展開をはじめ、獣をとらえるためのライフルへと形を変えた。
「さあて……楽しい楽しいお仕事の始まりだ」
巨体が故の面倒くささは感じるが、自分が狙うべきあの輝く結晶の位置は分かりやすい。それはハーベイにとっては幸運なことであっただろう。ただ問題は動けそうな囚人たちがどのようにアレと立ち向かうのか…それが掴みきれずにいた。

●対峙

 アンリから放たれた炎は軋り狼の前足に直撃する。大きなダメージはないものの、足を止める程度には効果があるらしい。しかしそれは、軋り狼のターゲットが彼にロックされてしまうほかならなかった。火炎が飛んできたその方向を軋り狼はゆっくり見上げる。
―― あれか
 視線が一瞬重なったその瞬間、アンリはそんな声が聞こえた気がする。と同時に、ぞくりと背筋が凍るような殺意。次の瞬間その巨体からは想像もできない機敏さでアンリ目掛けて跳ね上がり、彼がそうしたのと同様に機動力を奪うべくその翼目掛け、鋭い爪が狙い定めた。幾度の攻撃を避けたものの気づけば背に岩壁が迫る。
「…しまっ!!」
 迫る危険に成す術を考える余裕はない。無意識に腕でガードするが…。

ざしゅ…

 空を切り裂く衝撃波がアンリと軋り狼の間に走る。
「や、やった」
 VDが間に飛び込み放った蒼爪斬が軋り狼の体に直撃し、ほんの僅かであるが仰け反らせることに成功する。だが無理矢理間に入ったがために、VDの右腕にもまた狼の爪の先がほんの僅かあたる。
「あたしだって、やれるんだ……!」
 深手ではないものの腕に滴る血を抑えつつ、彼女の少なからず自信として芽生えたのかもしれない。…が。
「貴様、何をやっている!」
 危機を脱出したアンリから投げかけらる怒声。
「あんたがどう思うかわからないけど、あたしはここで他の囚人がやられちゃったら…そうなったらあたし、きっと自分を許せないよ。それに大丈夫、掠っただけだし」
そんな彼にVDは腕を軽く回して見せ、そのまま再び軋り狼に蒼の衝撃波を打ち込んでいく。しかし一撃一撃は確かに敵を捕らえてはいるが、その巨体故か決定的なダメージを与えている手ごたえは感じられない。

 二人の中に焦りが宿る。

ばりん

 長く感じたその一瞬を切り裂きそれは起きた――と同時に軋り狼から苦痛を示す雄叫びがあがる。見れば背の結晶が一本崩れ落ちていく。
「結晶の破壊は任してもらえないかい?」
 左手を振り居場所をアピールしながら、アンリとVD呼びかけるハーベイ。先立っての二人の行動を見て、今回動けそうな囚人を見定め、そうを伝える。それは単独行動を得意とするアンリにとっては不本意なものであっただろう。

だが。

「わかった。足止めは此方に任せろ。彼女の能力と合わせれば、十分可能なはずだ」
彼は、先程のVDの言葉に何かしらの気持ちが動いたのかもしれない。
「よーし!! あたしだって身軽に動けるところみせてやるんだから!!」
 呼応するようにVDも、遠方のハーベイに親指をたてた。

●共闘

 それからは確かな手ごたえ。岩間の間を縫うように突進してくる軋り狼の脚をアンリの爆炎が止め、そこで産まれる死角からVDが身体全体に力を籠めた蒼爪斬を叩き込む。
 それ自体はその巨体に深い傷を負わせられるものではない。でもそれでいい、自分たちの作ったこの戦場ならば―――

パァ…ん

 距離を置いた陰間から、弱点であるその結晶に狙い定めた一撃。結晶が一本落ちるたびに激高を上げる。奪われる度に大きな爪で抵抗し、近距離のVDに危機迫ることがあったが、アンリを含め戦況に勝利を見出した他の囚人たちの援護もあり致命傷を食らうことは避けられた。
喉を鳴らし、口元からは興奮からか大量の唾液が漏れ落ちる。明らかに動きが鈍り息も荒い…それは結晶の喪失と共に弱ってきている事を囚人達に知らしめていた。
(後、1本!! もう少しだ耐えてくれ)
 ライフルに姿を変えた右腕を左手で支え弾道を定めるべく狼の背を見る。後方位置のハーベイが攻撃を食らう可能性はほぼない、只ひたすら結晶の点を目掛け弾を放ち続ける。
遠目に見ても軋り狼もだが、足止めをしている二人も、じきに体力や魔力の限界がくる。少しばかり焦りも感じていた。
「だぁぁぁぁぁ!!」
 VDが自身を鼓舞するように叫びあげる。今までにない力を軋り狼に叩き込めば、タイミングを合わせたかのようにアンリも炎を放つ。

う゛ぉぉぉぉぉぉんん!!

巨体は叫びと共に大きな音を立てて地に横たわった。

「これでラスト、…撃ち抜くぜ」

 しん…

 ほんの一瞬、荒野の風が止む。そのタイミングを見逃さず、狙い定めた一撃を最後の結晶に撃つ。はじけ散る結晶の欠片は荒野の吹き抜ける風と共に舞い、気づけば軋り狼は完全に息を止めていた。

●撤収

「僕が浅慮であったようだ。すまなかった」
 看守の迎えがくるまでの間、VDが負った小さな傷跡を見ながらアンリが言葉を向ける。戦っている間に感じたなにか…まだ信頼と呼べるには微妙なその感情を彼なりに伝えたのだろう。
「うまくやっつけられてよかった」
 少し照れたように頬を掻きつつ応える。
「お嬢ちゃん…」
「あたしにはVDって名前、あるよ」
「それはそれは。VD、それに翼の…」
「アンリだ」
「アンリもよく耐えたな、頑張ったな、死人が出なかった…それだけで十分だ」
 そんな二人を眺めながら戦う前に吸い損ねた煙草を口に咥えながら二人を見やる。
「ば、そんなんじゃねーし!」
 ハーベイから向けられた言葉に照れつつも、自身達を回収する馬車を待ったのであった。畳む


#PBW リプレイ文字数:2,964文字
Akashic Records

少女は駆ける。
螺旋階段の底の底にあるとある場所に向かって。
下りれば下りる程、光は遠のいて行くというのに。

少女は目指す。
底なしに見える、でも必ずある底辺を。
其処に目指すものがあるのを知っているから。

深く深く奥底に眠る扉。
其処を目指して下りていく。

―― ついた!

見えてくる大きな鉄の扉。
此処にたどり着くのは此れで2度目。
1度目の訪れの際約束した2度目のその時を漸く迎えられたことに、少女の胸は高鳴るばかり。

重そうな扉も手を振れただけで、ぎい、と音を立ててゆっくりと開いていく。
扉の先に現れたのは、沢山の本、本、本。
部屋一面を覆い尽くす程のそれ。

本は1人で少女の前に寄ってきては「読んで」と誘う。
律儀に一つ一つの本に断りを入れながら、とある1冊の本へ真っ直ぐ進む。

―― 約束したよね

少女は本に語りかけた。
本は「仕方ない」と溜息を零す。

少女の為に本は頁を捲る。
最初の頁に書かれたそのタイトルは ――――畳む


#SS 397文字
Love letter from …
緋色の空に木魂するのは「彼女」の叫び。
蒼色の空に映えるのは「彼女」の願い。

その空の下には「彼女」の夢が広がる。

...

少年は1通の手紙を大事に持ち、ただ只管歩く。
目的――至ってシンプル。
手紙を届ける…ただそれだけ。
達成難易度――実に難解
何せ封筒には送り先の名前だけ。
そしてこの手紙事態少年の父親から引き継いだものなのだから。

代々引き継がれるこの手紙に何が書かれているかは分からない。
ただ、諦めたその時に手紙を読んでみろ、と、託された時に父から言われた。

何度となく封を開こうとするが、その度に空を見上げる。そうすると、何となく…若しくはそう思いたいかもしれないのだが、その手紙が言わんとしていることが分かるような気がした。

...

蒼色の空に下で感じた一瞬の幸福を。
緋色の空の下で感じた刹那の煌きを。


その空の下には「彼女」が渇望した世界が広がっている。
畳む

#SS 372文字
Feast of harvest

お一つどうぞ――木苺をあげましょう

軽やかにステップを踏みながら、集まる子供に小さな苺を配り歩く。
お一つどうぞ――命は廻る

籠の中にたわわと収穫されたそれが輝いている。

女は歌う。
収穫の祝いの歌を。

女は踊る。
豊穣の女神に。

次の収穫の為に陽の神に雨の神に
感謝と次なる収穫を祈って

子供は木苺を直ぐに頬張る。

おいしい

すっぱい

反応は様々だが皆一様に笑みを浮かべていた。


……

女は1人立ち竦む。
人の気配のないその村の中心で。

星だけが彼女を捕え、月が淡い光で指し示す。

静かな夜に女は踊る。

彼女だけが覚えている
廓大なる賛美の声を思い出しながら。

次の豊作をただ願って。畳む


#SS 272文字
Disguise masquerade

――私はThief、Clown mask。貴方の心を奪います

カーニバルの片隅、薄暗い街の片隅にひらりと封筒が舞い降りる。
それは鉄格子の隙間にひらりと滑り込み。
手に取る少女はその隙間から空を見上げる。

今日はとりわけ月が大きく映える。
綺麗…と息を吐くその一瞬で視界が闇に覆われる。

――私はThief、Clown mask。貴方の心を奪いに参上しました

囁かれる甘い声。
囚われの少女は吐き出した息を、次の瞬間には飲み込んで。

次に息を吐き出した瞬間、身体は黒いマントを纏う男と共に空に舞い。
大通りのカーニバル宛ら微かに聞こえる軽快な音楽をバックに軽やかに踊る。

――私はThief、Clown mask。貴方の僅かな安らぎを

眠る少女に毛布を被せ、唇にそっと指を這わせ。

――私はThief、Clown mask。貴方が私を忘れぬ限り何時か貴方自身を奪います

マントを翻し、夜の闇へと溶け込んだ。畳む


#SS 389文字
冬の村

深閑と雪が降り積もる村がある。
一年中、ずっと止まぬそれと共に暮らす村がある。

彼らは日の光の優しさを知らない。
彼らは雪解けの春の香りを知らない。

子供たちは雪でつくられた自分たちの秘密基地の中で
親から手渡される絵巻物でしる外の世界に夢を乗せて語り合う毎日。

春の花を 夏の空を 秋の恵を
彼らは知ることなく一生を終える。

ある歳、1人の少年がこの閉ざされた冬の世界に疑問を投げかけた。

大人たちは子供の戯言と
子供たちは変わったやつだと

少年の言葉を真面に聞いてくれることは無い。

それでも少年は見てみたかった。
この村以外の世界を。

ある朝、1人で村を出る決意をした少年。
村の出入り口で待ち構えていた長老が一つの地図を差し出した。

「知ることが悪い事ではない。しかし、それが幸福とはいわん」

少年は首を傾げつつもその地図を受け取る。
始めてみる外の地図に目を大きく見開いた。

「これを持ち出るもよし、だが、それはこの村と悠久の別れとなるだろう」

長老は尚も語る。

「外の世界は、この村より遥かに魅力的だ。だが我らはこの村に留まる事を選んだ。少年よ、お前は先祖代々が選んだ村を捨て世界を欲するか?」

少年は長老の目を見据え答えた。

「それでも知りたいのです。皆がこの村を選んだ理由を。それは此処ではかなわない事なのだから」
畳む


#SS 542文字
RosePerfumeの罠

「君の言うところの犯人であることを私は否定しよう」

探偵を名乗る少年を前に男は不敵な笑みを向ける。

「まず……だ、君が語る証拠は私を示すものではなく、この方法ならば私であろう……という予測に基づくものである。違うかね?」
少年は悔しげに唇を噛む。そんな姿を視界に納めた男は「ふむ」と小さく声を漏らし思案を巡らせた。

「なるほど、どうやら今の私の推理は強ち外れていなさげだ。なら次に進んでみるとするか。君にとっては私が犯人でなければ困る……ということだろう?」

「……!」

視線が逃げたね、これは正解でよさそうだ。では次だ……ここ迄の事実から、君はこの事件の犯人が私ではない事を知っている」

男が少年との距離を一気に縮める。少年は微かに身体を震わせ本能的に彼から距離を取ろうと後退るも彼はそれを許さない。

「このご婦人を殺めた犯人……それは」

「……そうだ、僕だ!」

「君ではない」畳む


#SS 380文字